
機械システムコース
教員
量子と機械を融合したセンシング技術を生み出し、未来の安心安全な社会構築を目指す
戸田 雅也
2024.02.22
機械システムコース / 教員
小川 和洋
2024.09.05
教員や学生、卒業生の〝声〟を通じて機械知能・航空工学科の魅力をお届けするウェブマガジンViEWi。今回は機械システムコースから、小川和洋 教授にご登場いただきます。
——先生の研究分野と目下取り組んでいる研究を教えて下さい。
「固体は神が創りたもうたが、表面は悪魔が創った」とは、排他律の発見者で、1945年にノーベル物理学賞を受賞したヴォルフガング・パウリ博士の言葉です。固体の内部は、隣り合う原子が手を繋いでおり、安定です。しかし、表面は手を繋ぐ相手がいないため、非常に活性で、金属材料であれば周りに酸素がいるとあっという間に酸化が起こります。いわゆる、錆びです。また、摩擦や摩耗を受ける場合、もちろん、内部ではなく表面が削れます。何にしろ、表面は少々厄介なところ。この悪魔が創った表面を黙らせる技術に表面改質があります。特に、我々の研究室では、表面改質技術の一つである厚膜コーティングに関する研究を進めています。厚膜コーティングは数十µm~数百µm厚の皮膜であり、基材上に成膜することにより、見た目を良くすることや耐食性や耐摩耗性を高めること、さらには撥水性、耐熱性、絶縁性、防汚性等、様々な特性を付与することができます。また、必要なところに、必要なだけ成膜でき、剥がれたら、再コーティングによる補修も可能です。厚膜コーティングの例として、航空機エンジンや火力発電用ガスタービン用の動静翼表面の耐熱性を改善する遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating: TBC)があります。これは、300µm程度の厚さですが表面温度を100~200℃低下させることができ、現在の飛行機やガスタービンは、TBC無しでは稼働しないといっても過言ではありません。ただし、このTBCも高温環境下で長時間使用されると、経年劣化によりはく離や脱落が生じることがあり、そうなると基材を高温に曝してしまうため、大事故に繋がることが危惧されます。我々の研究室では、この経年劣化のメカニズム解明とそのメカニズムに伴う新しい材料開発を行っています。当研究室で開発したコーティング材料によって、従来材と比較し、界面強度を3倍程度まで向上させることに成功しています。
——そうした研究成果はどのようなことに応用され、私たちの生活にどう影響をもたらすでしょうか?
表面改質は、前述したように、必要なところに必要なだけ成膜することが可能な無駄やロスの少ない技術です。ただし、多くの場合、異種材料が成膜されるため、熱膨張係数や材料強度特性の違いにより、コーティングが剥がれてしまうことがあります。種々の特性を改善するコーティングが剥がれると、その下にある基材は、過酷な環境下に曝され、安全性や信頼性が低下・失われてしまいます。このような劣化を生じさせないように、劣化メカニズムの解明やそのメカニズムに則した新しい材料開発を行っています。
また、ここ数年は、粒子を溶融させず、固相のまま成膜が可能なコールドスプレー法と呼ばれる成膜技術に関する研究も進めています。この手法は、成膜速度が速い、成膜効率が高い、高温酸化しない、真空チャンバーを必要としないといった、多くのメリットがあります。これまで、金属粒子を金属基材上へ成膜する技術でしたが、当研究室は、ポリマーやセラミックスの成膜にも成功しています。この技術を応用し、最近では太陽光の開発も進めています。真空チャンバーを必要としないため、屋外でも成膜も可能であり、将来的には、建物の屋根という屋根、壁という壁、全てを電池にできたらと考えています。
——学生に求めることや研究室の特色をお聞かせください。
当研究室は、多くの民間企業と共同研究を実施しており、学生の多くは共同研究のプロジェクトの中で企業の方等と連携しながら、研究を進めています。教科書に書かれていること以外で重要なこと、世の中で問題になっていること等、生の声を聞き、その解決のために知恵を出し合い、研究を進めています。問題解決には、得られた結果に対し先入観を持たず、何度も何度も多方面から観察を行い、執念を持って知恵を出すことが重要であると考えています。教科書にある学問は勉強すればある程度できるようになりますが、ものを観察する力は教科書からは得られません。観察力のある研究者になってもらいたいと考えています。
一方で、研究だけでは疲れてしまいますし、新しい発想は生まれません。当研究室では、花見、登山、テニス大会、忘年会等、多くのイベントを行い、楽しく研究室生活を送っています。遊びから学ぶこともたくさんあると考えています。また、留学生も多く、国際色豊かな研究室です。
小川 和洋
機械システムコース・大学院工学研究科附属先端材料強度科学研究センター 教授
日仏ジョイントラボラトリーELyTMaX日本側代表
1966年仙台生まれ、東北大学大学院工学研究科博士課程後期3年の課程修了。
趣味は、オートバイ、自転車、ウォーキング、学生との飲み会。
Laboratory Website:http://www.ogawa.rift.mech.tohoku.ac.jp/index.html
ABOUT
ミライをつくる、
わたしの視点
ViEWi(ビューウィー)は、東北大学工学部機械知能・航空工学科の「人」にフォーカスした情報を発信するウェブマガジンサイトです。研究者の視点や物事の考え方、研究内容を発信したり、卒業生や在学生の現在の取り組みや今後の展望などを発信していきます。