量子と機械を融合したセンシング技術を生み出し、未来の安心安全な社会構築を目指す

機械システムコース / 教員

戸田 雅也


2024.02.22

量子と機械を融合したセンシング技術を生み出し、未来の安心安全な社会構築を目指す
4台のマイクロマニピュレータの隙間に自作の高感度磁気センサーをセットする様子

——先生が目下取り組んでいる研究について教えて下さい。

私の研究ではマイクロ・ナノスケールの精密機械を、主に半導体微細加工技術(マイクロ・ナノマシニング)を利用し作製しています。この技術は、製品の高度な付加価値化に寄与し、私たちの身近なデバイス、例えばスマートフォンやタブレットにも応用されています。代表的な物には、インクジェットプリンタ用のプリンターヘッド、デジタルミラーデバイス、圧力センサー、マイクロフォン、加速度センサー、ジャイロスコープ、光スキャナーなどがあります。これらは主にシリコン材料を基にして構築された機械構造体です。加工には、フォトリソグラフィと呼ばれる光による微細パターン転写技術や、クリーンルームで行われるプラズマによる表面反応を利用します。これに加えて、様々な成膜技術も組み合わせて使用し、異なる素材からなる複雑な構造体を作製できます。

実験室にて学生と

私は、これらの微小な機械を「ミニチュアプラモデル」のように更に精密に組み立てて得られるマイクロ・ナノアセンブルシステムを作っています。組み立てる各構成要素が革新的で、磁気センサーは数百個の電子が作り出す磁力変化を検出できるほど高感度です。サンプルステージは、液体窒素で冷やした極低温環境でも機能低下せずに動作可能です。また、サンプル容器は、真空と液体を100ナノメートルという極薄の窓で仕切るというマイクロ流路構造になっています。これらの超精密微小機械は、顕微鏡を使って観察しながら精密に組み立てます。このようにして創成したアセンブルシステムにより生み出される具体的研究テーマとして、例えば、マイクロ・ナノスケールでのミニチュアMRIなど、新しい観察技術の開発に焦点を当てています。これにより微小領域での新たな知見や量子情報の可視化を追求し、大気中でも観察可能なシステムの構築を目指しています。他には、極限環境用集積化ダイヤモンドデバイス、量子調和の可視化技術、ナノメカニカルスピントルクセンサ、量子効果デバイス、微小エネルギー有効利用デバイスなど研究対象になっています。

——なぜ微小な世界の研究に取り組んでいらっしゃるのでしょう? また、研究が成功したらどのように世の中が変わるでしょうか?

私の研究では、微小機械を活用することで、省エネ、高感度、アレイ化、安価などの優れた特長が得られます。この分野のバックボーンである半導体加工技術を応用するためには、多様な知識と経験が必要で、今までに培ってきたその知識や経験を駆使して、量子と機械を融合したセンシング技術を生み出し、先端科学技術において世界で主導的な役割を果たすことをねらっています。現代社会ではIT、AI、IoTセンシング技術が重要性を増しており、オンライン診療や感染症対策などにおいても高精度な情報伝達が要求されています。量子効果に応答するような高感度な微小機械は、量子状態を読み出す新しい機構として機能し、量子-微小機械のアンサンブル(協奏)が生まれます。そこから、今まで人が見たり触れたりすることができなかった量子の世界を人が感じることができる、という未踏の可視化技術が開発できます。こうして私は、微小機械を活用したマイクロ・ナノアセンブルシステムによる高感度センシングの研究により、未来の安心安全な社会構築に貢献していきたいと思います。

光学顕微鏡で観る500ミクロンスケールのセンサーチップやRFコイルとサンプルウェハのアセンブルシステム。中央には,電子顕微鏡で観る5ミクロンスケールのシリコン製センサーとその先端に設置した直径5ミクロン程度の永久磁石球体 

——入学を希望する学生さんに求めることや、戸田研究室の特色を教えて下さい。

学びのプロセスを大切にし、積極的な参加型の姿勢を期待します。研究生活では、実践的な学びを通じて問題解決力や応用力を養成することが求められます。学びの中で何がどのように工夫されているのかを感じながら、継続的な考察を通じて成長し、将来の社会や科学技術の発展に貢献できる人材を目指して下さい。手を動かして学ぶことは効率的であり、好奇心が磨かれれば得られる成果のクオリティが向上します。応用力は継続的な努力によって養われていくものなので、まずは「なぜそうなるのか?」から主体的な学びを始めていきましょう。

クリーンルームにて、真空チャンバーを背景に

研究室は、留学生の割合が比較的多い研究室だと思います。打合せは英語や日本語が混ざって飛び交います。春夏は西公園でのお花見会や新入生の歓迎会、修了生の送迎会、秋冬は芋煮会、忘年会などの様々な行事が定期的に開催されています。また、研究室では安全講習なども行い、メンバーの健康と安全を確保しています。研究室のHPでは、年間スケジュールや研究打合せに関する情報もあるので是非ご覧下さい。

プロフィール

戸田 雅也

機械システムコース 准教授/工学研究科附属マイクロ・ナノマシニング研究教育センター副センター長

2007年3月大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。2007年ドイツマックスプランク高分子研究所での博士研究員、2008年東北大学大学院工学研究科助教、マイクロシステム融合研究開発センター助教、2013年同准教授、現在に至る。マイクロ・ナノ機械による極限センシング、磁気共鳴イメージング、近年はスピン応用センシングに向けた磁気共鳴センシングを融合したマイクロナノシステム開発の研究を行っている。

2016-2017年と2022-2023年の計4年間にわたって工学研究科附属マイクロ・ナノマシニング研究教育センターの副センター長を務めた。本センターは,学内の50を超える研究グループと300人を超えるユーザーが利用しており、100台を超える共用装置を有している。

Laboratory Website:https://www.nme.mech.tohoku.ac.jp/index.html