目指すは「人間のように世界を深く理解できるAI」の実現

ロボティクスコース / 教員

岡谷 貴之


2026.03.17

目指すは「人間のように世界を深く理解できるAI」の実現

東北大学 機械知能・航空工学科のさまざまな研究分野や先生、卒業後の活躍にスポットを当てるウェブ・マガジンViEWi。今回はロボティクスコースの岡谷貴之教授にご登場いただき、社会実装化が進むご自身の研究分野を存分に語って頂きました。

——岡谷先生の研究分野と目下取り組んでいる研究について教えてください。

私の研究室では、「コンピュータビジョン」あるいは「ロボットビジョン」と呼ばれる分野の研究を行っています。これは一言で言えば、人間や動物が当たり前のように使っている「視覚」という高度な知能処理を、機械(コンピュータ)の上で実現することを目指す学問領域です。

近年、この分野の技術は急速に進化し、私たちの生活に身近なものとなりつつあります。皆さんもご存知の通り、最新の生成AIは、言葉だけでなく画像をも深く理解する能力を獲得しました。例えば、スマートフォンのカメラで街並みを撮影すれば、そこに何が写っているのか、どのような状況なのかをAIが正確に言葉で説明してくれます。これは、長年研究されてきた画像認識技術が結実した大きな成果の一つです。

また、「認識」だけでなく「空間の把握」においても技術は実用化されています。「Visual SLAM」と呼ばれる技術がその代表例です。これは空間を移動するカメラの映像を解析することで、カメラ自身の位置や姿勢、さらには周囲の3次元形状を推定する技術であり、自動運転車やドローン、AR(拡張現実)システムの根幹を支える技術として社会実装が進んでいます。

学生の研究をサポートすることも

私たちの研究室の大きな目標は、人間や動物が脳の中で無意識に行っているこれら複雑かつ高度な視覚情報処理を、コンピュータ上で再現することです。

ここ数年、AI技術(特にディープラーニング)の劇的な進歩により、この分野は飛躍的な発展を遂げました。しかし、すべてが解決したわけではありません。いや、むしろ今からが本当に面白いところだと感じています。

言葉で曖昧さなく説明できるような概念は捉えられるようになりましたが、それはあくまで「浅い理解」に過ぎません。より深い理解、すなわち言葉では言い表せない概念——例えば物の質感や空間の構造など——においては、機械はまだ人間と同じレベルの視覚機能には全く到達していないからです。「人間のように世界を見る」までには、まだ解くべき本質的な問いが残されています。私たちは、この急速な発展の中でなお残されている「未解決の重要な問題」に焦点を当て、真に知的で役に立つ視覚機能の実現に向けて研究に取り組んでいます。

コンピュータ上でのソフトウェア研究に特化した研究を行う

——人間や動物が脳の中で行う視覚情報処理を、コンピュータ上で再現させるという事ですが、なぜそのような研究に取り組むようになったのでしょう?

私がこの研究に取り組む原点は、学生時代から抱き続けている知的好奇心にあります。当時、AIは現在のようなブームではなく、その能力も今とは比べものにならないほど限定的でした。しかし私は、「脳の情報処理の解明」こそが、宇宙開発と並んで人類に残された最後の未踏領域(フロンティア)であると確信していました。そこで私は脳の神秘に惹かれ、それを単に科学的に分析するのではなく、「工学的に構築することで理解する」という道を選んだのです。

目指しているのは「人間のように世界を深く理解できるAI」の実現です。これが達成された時の社会的インパクトは自明でしょう。例えば、現在の技術とは桁違いに安全で信頼できる自動運転が可能になります。また、家事ロボットが周囲の状況を真に理解できるようになれば、私たちの生活を支える多くの仕事が劇的に効率化されるはずです。

危険な作業や単純なタスクをAIやロボットに任せることで、人間が「人間にしかできない」より創造的で有意義な活動に時間を使える豊かな未来。私は、そんな世界の到来を信じて研究を続けています。

所属する助教や学生の皆さんと議論

——研究室に所属する、あるいはこれから希望する学生さんには、どのような事を求めておいでですか?

当研究室は機械系のロボティクスコースに所属していますが、現在は実機のロボットではなく、AI開発、つまりコンピュータ上でのソフトウェア研究に特化しています。「機械系なのに実機を触らないのか」と物足りなさや、プログラミングへの不安を感じる人もいるかもしれません。

しかし、ここで伝えておきたい事実があります。現在、世界中で行われているロボットや自動運転の開発競争の「本丸」は、ハードウェアではなくソフトウェアにあります。研究開発リソースの大部分が、知能化という領域に注がれているのです。

学生達には、この世界の潮流をよく理解してほしいと思います。機械工学で培った物理現象への深い理解と、最先端のAI開発力。この二つを兼ね備えることこそが、これからの時代において「最強」の強みになります。物理世界の理(ことわり)とデジタルの知能を繋ぐ、意欲ある学生を待っています。

撮影時に在室していた学生らとともに。大学院では情報科学研究科の所属となる岡谷先生。学生は留学生を中心に30名が所属する大所帯

プロフィール

岡谷 貴之 Takayuki Okatani

東北大学 大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻 教授
理化学研究所 革新知能統合研究センター チームディレクター兼務

1994年東京大学工学部計数工学科卒業、1999年同大学院博士課程修了。博士(工学)。同年、東北大学大学院情報科学研究科助手、助教授を経て2013年より現職。2016年10月より理化学研究所革新知能統合研究センター チームディレクターを兼務。 専門はコンピュータビジョン、知覚情報処理、知能ロボティクス。主に画像の認識・理解・計測技術の研究に従事している。

Laboratory Website:岡谷研究室|COMPUTER VISION LAB.