
ロボティクスコース
教員
光学迷彩も夢じゃない 光を自在に操るナノマイクロ・ロボティクス
金森 義明
2023.04.07
東北大学機械知能・航空工学科から最新の研究や研究室の様子をお伝えするウェブマガジン〝ViEWi〟。今回は、ロボティクスコースからセンシングデバイスの研究・開発に取り組む猪股直生准教授にご登場いただきます。
——ご専門の研究分野と現在取り組まれている研究について詳しく教えて下さい。
〝センサとは?〟と問われても、あまりに漠然とした印象で、即答できる人は少ないのではないでしょうか。確かにその通りで、世の中には様々な種類、大きさ、性能のセンサで溢れていますが、それを意識する機会はまずないと思います。身近なセンサシステムを挙げると、スマートフォン、体温計、自動車、スマートシティ、ロケット、人工衛星とキリがありません。五感に代表されるように、生物自身もセンサの塊です。私の研究室では主に「生体センシング技術」の研究に取り組んでいます。生体の活動をモニタリングするという意味も、生物のセンサ機能を再現する研究という意味も両方含んでいます。
研究事例を紹介します。前者の例は、肌に貼る・身につけるウェアラブルデバイスと光や電波を組み合わせて、リモートで生体ガスを計測する研究です。病院で健康診断をしなくても未然に病気を防ぐことが目的で、呼吸のような日常を妨げない無意識の動作から、測定してすぐに確実な結果が出ることが望ましいです。ヒトの呼気や皮膚ガスには病気と関連がある物質が含まれています。生体ガスの特徴は、血液検査と違って痛みを伴わず、自然に排出されるので検体採取の手間がかからないことですが、含まれる検体の量が極めて少ないことと非常に多種の物質が含まれていることから分析技術が追い付いておらず、まだまだ発展途上です。
後者に関して、生体のセンシング機能は細胞レベルで生じていますが、実はその原理はわかっていないことがたくさんあります。人工的に再現するには最初になぜ・どのような振る舞いをするのかをはっきりさせてないといけません。なので、その一例として、細胞一つの挙動が温度や熱でどう変わるかをモニタリングできるデバイスを開発しています。つまり、細胞の体温計ですね。なぜ温度かと言うと、細胞にとって非常に重要なパラメータだからです。暑くても寒くてもダメなのは細胞も我々も同じです。細胞の大きさは数10µm(髪の毛の半分程度)ですが、こんなに小さくても温度を測ることができます。ヒトと細胞では大きさのスケールが全く異なりますが、我々のセンシングデバイスに共通するキーワードは「微細加工技術」ですね。掲載面の都合で詳細は省きますが、「マイクロナノなら東北大」くらい言っても過言ではないと思います。
——なぜそのような研究に取り組んでいるのでしょう? また、先生の研究は今後どのように世の中に役立てられるでしょうか?
これまで観察すらできなかったことを計測できるようにすること、つまり、これまでわからなかったこと・できなかったことを明らかにしたいというのが研究のモチベーションです。エンジニアリングですので、世の中や社会に役立つこととセットで考えています。生体のセンシング機能は現在の科学技術では成し得ない程の性能を持っているものもあります。これを人工的に再現できれば、またはこれを凌駕する性能のセンシング技術が生まれれば世界が変わります。つまり、あるセンシング技術が発達すると、これまで観ることができなかった物理現象を観ることができます。次は観るだけでなく、きちんと計測しようとしてセンシング技術が更に発達します。すると、この発達した技術を使って、また新たな物理現象が観えてくるわけです。このループは人類がこの世に存在する物理現象を全て解明するまで続きます。いつ終えることができるかは誰もわかりません。このループの中から、我々の日常を変えるほどのセンシング技術がロールアウトされます。さきほどの生体センシングも、センサだけでなく計測系や周辺機器が発達すれば、非接触体温計のようなハンディデバイスを向けるだけで、バイタルサインのみならず現在の健康状態を分析できるようになります。極論から言えば、喜怒哀楽も脳内・体内の化学物質によるものなので、遠くない将来にヒトの感情も数値化できる日がくるかもしれません。もはやSFの世界ですが、そんなに非現実的かと言えば、そうではないと思っています。まぁ、そんなところが研究のモチベーションです。
——所属する学生さんにはどのようなことを求めていますか? また、研究室はどのような雰囲気ですか?
学士・修士で卒業すると、大学・大学院で学んだことが仕事や社会で直接役立つ、というケースはそう多くはありません。何かのきっかけで、業務内容がこれまでとは全く異なるものになることもあるでしょう。ですから、専門分野や長年取り組んだことが変わることになっても変わらないもの、つまり軸足になるものを身につけて欲しいです。それが「自分で考えて動く力」と「伝える力」です。研究は、受験と違って明確な答えがわかっていないことへの挑戦です。正解にたどり着くためにはどうすればよいか、データから何が読み取れるか、次はどうすればよいかを考えながら、かつ、どう説明すれば上手く周囲と共有して議論できるかを考えながら研究に取り組んで、物理現象の真理に少しでも近づく喜びを知ってもらえば、と思っています。さきほど研究と受験は違うと言いましたが、難しい数学の問題が自力で解けた時の喜びは近いものがあるかもしれません。もう一つは、常に物事を疑って欲しいですね。研究では、当時正しいと思われていたことも、数十年経って引っくり返ることがあります。今やっていることの手法や方向性は合っているのか、淡々と指示をこなすだけになっていないか、常にとは言いませんが、たまに思い返して欲しいです。そこから本当に価値のあるモノが生まれます。研究室内では学生間で積極的に研究に関する話をしているのを耳にします。ノウハウが重要なところもあるので情報共有も含めて、自分から積極的に問題解決を図ろうとする姿勢の下地はできているように感じています。
猪股 直生
ロボティクス専攻・准教授
東北大学工学部機械知能・航空工学科卒業、同大学院工学研究科バイオロボティクス専攻(修士)、機械システムデザイン専攻(博士)修了。本学マイクロシステム融合研究開発センター・助教、同大学院工学研究科機械機能創成専攻・助教を経て、2022年からロボティクス専攻・准教授。Innovations for High Performance Microelectronics(ドイツ)・Visiting researcher(2022年~2023年)。宮城県仙台第一高校出身。
Laboratory Website:金森・岡谷研究室/猪股研究室
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ミライをつくる、
わたしの視点
ViEWi(ビューウィー)は、東北大学工学部機械知能・航空工学科の「人」にフォーカスした情報を発信するウェブマガジンサイトです。研究者の視点や物事の考え方、研究内容を発信したり、卒業生や在学生の現在の取り組みや今後の展望などを発信していきます。