
ファインメカニクスコース
教員
特別座談会 ファインメカニクス専攻&コース教員、ナノテラスを語る―Vol.1
ファインメカニクス専攻&コース教員
2024.10.09
ファインメカニクスコース / 教員
ファインメカニクス専攻&コース教員
2025.04.07
ファインメカニクス×放射光―小さな機械の工学と放射光の接点―
特別座談会 ファインメカニクス専攻&コース教員、ナノテラスを語る―Vol.1はこちら
松隈 ファインメカニクス専攻・コースのいくつかの研究室では放射光を利用した研究をされています。ナノテラスの利用はこれからになると思いますが、これまでにどのような研究をされてきたのか、ナノテラスによってさらにどのように研究が進んでいきそうかということをお伺いしたいと思います。
祖山先生はキャビテーションについて長く研究されていらっしゃいます。その研究と放射光との関連を教えてください。
祖山 私は材料工学と流体力学を主に研究の場としていて、その中で、キャビテーションと呼ばれる現象に興味をもって研究を行ってきました。キャビテーションというのは液体が高速で流れたときに圧力が減ることによって気化する現象のことです。一般には例えば水中で回るプロペラなどの周りで生じてプロペラを壊す害悪として知られています。一方で、私は、キャビテーションをうまく使ってやると金属を強くできるということに興味をもって、キャビテーションの工学的な応用についても研究をしています。いずれにせよキャビテーションという現象を理解することで、なぜものが壊されるのか、またある条件下では強くなるのか、ということを解明しようとしています。プレスリリース [1]も出しましたが、キャビテーション現象に対して、矢代先生に協力していただいて放射光やX線自由電子レーザーを用いて観察をすることを試みました。可視光で観察した写真だと分解能が低くて見えなかったのですが(写真上)、放射光だと解像度高く現象を観察することができました(写真下)。これは渦キャビテーションと呼ばれる渦の周りにできるキャビテーションの様子です。放射光で観察をする前は、キャビテーションというものは小さな気泡から構成されていると思っていましたが、角ばった構造をしているということをこの放射光写真によって初めて理解しました。
[1] https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2023/12/press20231215-01-cavitation.html
どうしてキャビテーションの形状や時間的な変化が重要かと言うと、キャビテーションがどういう形をしていて、つぶれようとしているのか、発生しようとしているのかというので衝撃力が全く異なってきます。だから工学的にはものを壊すのか強くするのか、という害悪になるか、使えるものになるのかで意味が全く異なってきます。
松隈 長く未解明だったものが放射光の力で見えたんですね。これからは放射光で得られた知見をどのように生かしていこうとお考えですか?
祖山 そうですね。実際にこういう形だったんだ、ということが初めて分かったのでこれからは数値計算などでこのキャビテーションの発生を再現できるかということや、この形のキャビテーションを初期条件として設定したときに材料とどんな相互作用をするか、自由にキャビテーションの形を作れるかなども含めて考えていこうと思っています。また、私が研究をしている渦のキャビテーション現象は確かに衝撃力としては強いのですが、1000個のキャビテーションを作ったとしてそのうち1個くらいしか使われていないということで効率が悪いんです。だからどうやったら効率よくキャビテーションを使えるかということを放射光の観察と実験室での研究とで同時並行で解明したいと思っています。
松隈 ありがとうございます。続いて流体関連ということで、生体流体力学分野の菊地先生にお話をお伺いしたいと思います。まず簡単に研究のご紹介をお願いします。
菊地 私は生き物の中での流体力学を研究しており、特に小さい領域の流体現象を観察しています。微生物や血液等の流体の中でも非ニュートン流体に特に興味を持って研究をしています。そのための可視化ツールとして放射光を使っています。これまではSPring-8やアメリカのAPSを使ってきました。
松隈 放射光を使った研究で具体例を教えていただけますか?
菊地 例えば、蚊の頭の中のポンプの動きを観察するという研究で放射光を使うなどしてきました。最近だと、パンの発酵で、パンが酵母によって発酵されて泡が生成される過程を見て、パン生地の粘弾性計測をすることでメカニズムを見るというようなことをやっています。
松隈 内部を生きた状態で見られるということで、放射光は強力なツールになっているのですね。普段の研究にはどのように還元できそうですか?
菊地 将来的には研究している生体流体について、例えば食品化学などに生かせるんじゃないかと思っています。
松隈 ありがとうございます。西先生はスポーツ用品メーカーから大学に異動して研究をされていらっしゃいますね。普段はどういったご研究をされていますか?
西 具体的なアプリケーションとしては、前職のスポーツ用品メーカーでの研究から続いていて靴底の摩擦対活性や摩耗をいかに制御するかということをやっていた背景もあるんですが、靴底のグリップ性、耐久性などの研究をしています。他にもタイヤの摩擦や肌の摩擦などにも研究を展開しています。
松隈 それらの研究対象に放射光をどう使っていますか?
西 実は放射光実験は始めたばかりなんです。放射光を使って見たい現象としては、ひずみの分布になります。ゴムが何かに接触をして摩擦を発現するといった時に必ずひずみます。例えば靴ですと、100の力で圧縮をするとして、その結果としてすべての力がひずみに変換されるわけではなくて、例えばそのうち20%くらいは摩擦となります。したがってひずみの制御というのがすごく大事になります。ただそういったことはこれまでシミュレーションで計算するしかなかったのが現状です。私はそういったところに直接観測する手法がないかと思っておりまして、放射光実験でできるのではないか、と矢代先生にお声がけいただいて実験を始めました。
松隈 放射光の強みは何だと思いますか?
西 そうですね。X線CTなども使えるかもしれないですが、やはり圧倒的な輝度が私の研究には魅力的です。X線CTではどうしても輝度が低くて測定に時間がかかってしまいます。高い時間分解能で摩擦の現象を追跡できるというのが放射光の強みだと思います。
矢代 そのほかにもX線はビームの直進性が高いために被写界深度がとても深いというのがあって、おそらく西先生の研究ではその点もお役に立てるのではないかと思って放射光の研究にお誘いしました。
松隈 ありがとうございます。千葉先生と野村先生は物性の研究をされていらっしゃいますね。千葉先生はどのような研究をされていらっしゃいますか?
千葉 ざっくりと言うとスピントロニクス、特にナノ磁性体の研究をやっています。スピントロニクスは主な応用先としてハードディスクヘッドや、磁気メモリに使われています。私個人の研究としては、最近はスピントロニクスデバイスを力学センシングに応用できないかという研究をしています。こういった素材を柔らかい基板の上につけてやると大きく抵抗値が変化します。こういった曲げることで変化する物性を活用して新しいセンサを作れないかと思っています。放射光では元素選択的にものを見ることができますので、これを使うとどの原子がどのような状態にあるのか、ということの詳細を追うことができます。だからたくさんの元素から構成されるデバイスであっても、 何の元素の状態が変わることで現象が変わっていくかということを理解することができます。
松隈 千葉先生はこれまでもSPring-8を使って研究をされていますが、ナノテラスに期待することはなんですか?
千葉 やはり高い輝度です。今やっている研究でどうしても実験の誤差が大きいということがあります。輝度が高いと実験の誤差をきわめて小さくしてくれるのではないかと思っています。
松隈 力学センシングにも興味をお持ちということですが、どういった経緯ですか?
千葉 これまでスピントロニクスではメモリやハードディスクなどへの応用ばかりでした。それだけではつまらないなと思いまして、せっかく機械系の教員になりましたので、それも含めてこれまでの経験を生かしてチャレンジしようと思っています。
松隈 野村先生は千葉先生と同じグループに所属ですが、どのようなご研究をされていますか?
野村 私も千葉先生と同じくスピントロニクスに関する研究を行っています。私はこれまでスピントロニクスを使って計算機を作る、という研究をやってきました。先ほど千葉先生のお話にもありましたようにスピントロニクスの素子はどうしても基本的にはメモリ、すなわち記憶素子として使われてきました。私達は、スピントロニクス素子が計算にも使えるということを示してきておりまして、それを組み合わせて人の脳に近い動きをする素子、これをニューロモーフィックといいますが、そのような素子をスピントロニクスデバイスで作ろうとしています。この原理を検証する時に放射光が非常に強力な顕微鏡になってきます。ナノテラスはこれまで使ってきた放射光に比べて輝度が高い光になるので、その点でも期待をしています。
松隈 ありがとうございます。放射光ユーザーの先生方にお話をお伺いして、様々に期待されている部分などが分かりました。近年、ファインメカニクスの先生方は、積極的に放射光と関連した研究をされていますが、どういった経緯でしょうか?
菊地 ファインメカニクスの先生方は小さな領域の機械や生き物、柔らかかったり、動いたりするものをずっと研究されていて、それが高度なイメージング手法で見えるようになってきたからだと思います。
祖山 私は見たいものがずっとあったのですが、それを見る術がなくて、矢代先生が来てくださってからイメージングができるようになって心強く思っています。
千葉 SRISの教員としては、機械系の先生方が面白い対象を持ってきてくださって、まだ放射光で見たことがないような様々な面白い現象や機械などに触れる機会となっています。さらに高度な測定手法の開発などにもフィードバックができると考えており、共同研究によってさらに進んだ結果・計測手法が生まれていくと思っています。そのための準備が整ってきたとも感じています。
松隈 最後に、ファインメカニクスコース・専攻の学生や、まだ研究室に配属されていない機械系の学生へ期待することやメッセージをお願いします。
野村 私はナノテクをやっていて、その中でも「柔らかいものを動かす」という少し変わったナノテクをやっています。普段の生活では意識しないレベルのナノテラスが照らすような、小さな領域でものを動かすというようなことに興味がある人にぜひファインメカニクスコースに来てもらいたいですね。
菊地 機械系だとロボットや航空に興味があって入学した人が大半だと思います。ですが、ファインメカニクスコースは自然科学、物理・化学・生物の原理に興味をもちながらもエンジニアとして役に立ちたい、という人が活躍できる分野だと思います。
西 東北大に赴任して思うことはとてもまじめな学生が多いなと感じています。大学に入ってからいろんなことに興味を持つ中で、皆さんがやりたいと思う学問に出会えて、それが実際にできる環境にしていきたいと思います。
祖山 東北大学の学生はすごく恵まれてると思うんですよ。近くで言えばナノテラスを使えますし、他にもよその大学・学科では使えないような大型装置を使う研究などもファインメカニクスの先生方はされています。 そういった研究に興味をもってサイエンスをしようと思ったらすごく大きなチャンスがあるんです。ただ、チャンスはあるけど、それに手を出さなかったら何もできないので、自分から手を挙げて積極的にチャレンジしてほしいです。
千葉 物を作るだけではなくて、なぜそうなるのか、ということをナノの世界の原理まで分かるようになるととても楽しいと思います。そういったことをやりたい学生にぜひ来てもらいたいなと思います。
矢代 私がやってるのは計測なんですが、計測は「科学の母」と呼ばれています。例えばノーベル物理学賞・化学賞でもかなりの割合で計測の研究に与えられているんです。高校生や学部の学生にはまだよく分からない分野かもしれないですが、ものづくりと計測というのは密接に結びついていて、高度な計測ができるようになると高度なものづくりができて、そうするとさらに高度な計測ができるようになる、というスパイラルアップの関係にあります。こういった小さな領域の計測やものづくりに興味をもってもらえるといいなと思います。
松隈 本日はありがとうございました。私も大変勉強になりました。
【座談会参加教員】
祖山 均 教授
知的計測評価学分野
Laboratory Website:https://web.tohoku.ac.jp/ism/
千葉大地 教授
国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)、国際連携スマートラボ(協力講座)
Laboratory Website:https://chibalab.sris.tohoku.ac.jp/
矢代 航 教授
国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)、次世代検出法スマートラボ(協力講座)
Laboratory Website:https://www2.tagen.tohoku.ac.jp/lab/yashiro/html/
菊地謙次 准教授
生体流体力学分野
Laboratory Website:http://www.bfsl.mech.tohoku.ac.jp/index_jp.html
野村 光 准教授
国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)、国際連携スマートラボ(協力講座)
Laboratory Website:https://chibalab.sris.tohoku.ac.jp/
西 駿明 助教
ソフトメカニクス分野
Laboratory Website:https://web.tohoku.ac.jp/yamaguchi/
【司会進行】
松隈 啓 准教授
精密ナノ計測学分野
Laboratory Website:https://web.tohoku.ac.jp/nanometrology/staff.html
ABOUT
ミライをつくる、
わたしの視点
ViEWi(ビューウィー)は、東北大学工学部機械知能・航空工学科の「人」にフォーカスした情報を発信するウェブマガジンサイトです。研究者の視点や物事の考え方、研究内容を発信したり、卒業生や在学生の現在の取り組みや今後の展望などを発信していきます。